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新潟地方裁判所 平成3年(ワ)557号 判決 1992年12月17日

原告

小泉茂

小泉純子

右両名訴訟代理人弁護士

砂田徹也

被告

新潟県交通災害共済組合

右代表者組合長

内山文雄

右訴訟代理人弁護士

岩野正

主文

一  被告は、原告らに対し、それぞれ金五〇万円及びこれに対する平成三年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  本件判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

一二人乗りの自転車に自動車が追突し、自転車の後部荷台に乗っていた被害者が死亡した事故に関し、被害者の両親が被告に対し、被害者を加入者とする新潟県交通災害共済組合交通災害共済条例(以下「共済条例」という。)に基づいて死亡見舞金を請求した事案である。

二争いのない事実

1  被告は、新潟県内の全市町村が組織する特別地方公共団体であり、住民の交通事故災害に対する交通災害共済の事務を共同処理するために設立されたものである。

2  被告は、共済条例に基づき、加入者が共済期間中に交通事故で死亡した場合には、遺族に対し共済見舞金として一〇〇万円を給付することなどの事務を行っている。

3  亡小泉明子(以下「明子」という。)は、共済条例の加入者であったところ、平成三年三月九日午前三時三五分ころ、新潟市幸町七番一九号先道路(主要地方道新潟小須戸三条線。以下「本件道路」という。)において、訴外楠豊(以下「楠」という。)運転の自転車の後部荷台に同乗中、訴外白川一男(以下「白川」という。)運転にかかる普通乗用車(以下「白川車」という。)に追突されて転倒し、同日午前五時四〇分死亡した(以下「本件事故」という。)。

4  原告らは、明子の父母であり、相続人であって、共済条例八条一項の遺族に該当する。

5  共済条例九条一号は、交通事故による災害の発生が、共済加入者又は共済見舞金受取人となるべき者の故意又は重大な過失による場合は、共済見舞金を給付しない旨定められている(以下「本件給付制限規定」という。)。

三争点

本件事故は、本件給付制限規定に該当するか。

第三争点に対する判断

一前記争いのない事実に、<書証番号略>を総合すると、白川は、見通しの良い片側一車線(幅員約3.3メートル)の本件道路を白川車を運転して時速約五〇キロメートルで進行中、カーステレオ操作に気を取られ、道路前方の別紙交通事故現場見取図のA地点(路側帯の白線から約1.2メートル車道内)を西方に向けて走行中の楠運転の自転車に全く気付かず、同速度のまま同自転車に白川車を追突させたものであること、本件事故の結果、楠運転の自転車の後部荷台に同乗していた明子が路上に転倒し、後頭骨から第一頸椎間の離開を伴う脊髄離断等の傷害を負って死亡したことを認めることができる。

二本件給付制限規定は、共済加入者又は共済見舞金受取人となるべき者の故意又は重大な過失によって災害が発生した場合には、共済見舞金を支給しないと定めたものであり、この給付制限規定は、右「故意又は重大な過失」と「災害の発生」との間に相当因果関係を要する趣旨と解される。

思うに、そもそも自転車は原則として二人乗りを予定しておらず、荷台に運転者以外の者が同乗すると、自転車の走行が不安定となり、それ自体危険性のある行為であるということができる。しかしながら、右一で認定した事故態様に鑑みると、本件事故は、白川の一方的な過失によって発生した事故であるということができ、楠と明子による自転車の二人乗りは、たとえそれが刑罰法規に抵触するとしても、本件事故の発生とおよそ無関係であったということができる。

そして、本件給付制限規定中の「交通事故による災害の発生」には、事故の発生のみならず、損害の拡大についても含まれると解される余地もあるが、右一で認定した事故態様及び本件道路の状況に鑑みると、明子が自転車の後部荷台に二人乗りで同乗していなければ、明子は、死亡しなかったとまでは直ちには認め難いところである。

他に、本件事故による災害の発生が共済加入者であった明子の故意又は重大な過失によるものであると認めるに足りる主張も証拠もない。

被告は、加入者が新潟県道路交通法施行細則第九条一号イの禁止する自転車の二人乗りをすれば、それだけで本件給付制限規定に該当すると主張しているが、共済条例上そのような定めはなく、右被告の主張は理由がない。

三したがって、本件事故は、本件給付制限規定に該当しないものというべきである。

第四結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官太田幸夫 裁判官戸田彰子 裁判官永谷典雄)

別紙交通事故現場見取図<省略>

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